『藁を手に旅に出よう “伝説の人事部長”による「働き方」の教室』は、荒木博行氏によるビジネス書で、2020年9月17日に文藝春秋から刊行された本です。本書は寓話を用いて働き方やキャリア形成について考察する新感覚のビジネス小説として、多くの読者から高い評価を得ています。この記事では、そんな本書の魅力や教訓について深掘りしてみたいと思います。
サカモトの成長と寓話の教訓
物語は、新人社員のサカモトが働く意味を見出せずに悩んでいるところから始まります。そんな彼が、伝説の人事部長「石川さん」と出会い、石川さんの指導を受けながら成長していく過程が描かれています。この物語の特徴は、ビジネスに役立つ考え方を寓話を通じて分かりやすく説明している点です。例えば、古典的な寓話「うさぎと亀」の話を取り上げながら、「そもそも亀は無謀な勝負を受けるべきだったのか?」という新しい視点を示し、自己の強みを活かす戦略の重要性を説いています。
手元の資源を活用する「わらしべ長者」の教え
こうした寓話の解釈が、本書の大きな特徴です。例えば、「わらしべ長者」の話では、主人公が最初にもっていた藁をどんどん高価なものに変えていく過程が描かれています。しかし、彼は最初から藁が高価なものに変わることを知っていたわけではありません。ただ一歩を踏み出すことができたことが重要であり、これが働き方における大切な教訓として提示されています。この寓話を通して、手元にある資源を最大限に活用し、一歩を踏み出す勇気を持つことの大切さが強調されています。
実践的な働き方と哲学的な問い
また、本書は単なる働き方の教訓にとどまらず、人生に対する深い洞察も与えてくれます。特に後半部分では、「自分の人生をどう生きるのか?」という哲学的な問いに焦点が当てられています。実践的な「どうやってうまく仕事を回すか」という問いと同時に、人生の意味を探求するというテーマが展開されていきます。このように、ビジネスと人生の両面においてバランスを取ることの大切さが本書を通じて繰り返し強調されています。
ポジティブ・ケイパビリティとネガティブ・ケイパビリティ
さらに本書では、「ポジティブ・ケイパビリティ」と「ネガティブ・ケイパビリティ」という概念が紹介されています。前者はすぐに答えを出す力であり、後者は答えの出ない状態を受け入れ、それを考え続ける力のことです。特に現代社会において、常に成果を求められる環境では「ポジティブ・ケイパビリティ」が重視されがちですが、著者は「ネガティブ・ケイパビリティ」の重要性を強調しています。特に、人生の重要な決断においては、すぐに結論を出さずに考え続けることが必要であると述べています。
自分の人生を生きるための問い
また、著者の荒木氏が本書を書くきっかけとなったのは、「トミー・アンゲラーの『すてきな三にんぐみ』という絵本の魅力を広めたい」という思いからだったとされています。この絵本には、「使命感への目覚め」というテーマが描かれており、本書でも人生の意味や目的について深く考えることの重要性が語られています。物語の中で、盗賊の三人組が誘拐した子どもに「この財宝をどうするの?」と問われ、初めて自分たちの目的を考え始めるシーンが登場します。このシーンは、自分の人生を生きることの重要性を強調しています。
5段階の目的深堀とVISONの重要性
本書には、「やっていることの目的を5段階に深堀する」という方法も紹介されています。これは、自分の仕事や活動が自分の生きる意味に繋がっているかを確認するための手法です。目的を深堀していくことで、本当に意味のあることをしているかどうかを見極めることができます。もし途中で「ウソっぽい線」が出てくるなら、それは自分の行動が自分の価値観と一致していない可能性があることを示しています。この方法は、特に自分の働き方やキャリアに疑問を持っている人にとって、有効な手段となるでしょう。
本書は、働き方やキャリアについて悩む若手社会人にとって、自己啓発の一助となる内容が詰まっています。著者の荒木博行氏は、株式会社学びデザインの代表取締役社長であり、人材育成や教育分野での豊富な経験を持つ専門家です。そのため、本書の内容は実践的でありながらも、深い洞察に満ちています。